物質化した過去のようで、空虚だけど意味がある存在。
「君は誰?」 その姿はすっと掻き消える。
赤い唇の奥に覗く舌の上に鎖があって、
不安定な足場をよちよちと赤ちゃんのように歩く私は、不満。
首の周りの皮膚が、はがれて、ただれて、赤くて、痛くて。
飲み込まれる前に逃げなければ、と思う──でも。
温かくて湿った牢は、なつかしくて。
具合の悪そうな赤いじゅうたんの上。
裸になってうずくまっていると、変な夢を見る。
その夢は「現実」に近くて、私は脂汗を何度もぬぐう。
私は誰なのだろう?
指先から流れる血の色におぼれて、病の海でおぼれるアリは、
救いようのない私、不満。
にぎりつぶせるはずの過去が、頭の中で不燃物のラベルを貼られている。
オリの中にぎゅうぎゅうづめになったサルの中に、
一匹だけまだ息のある奴がいて、
私はその目を突いてやろうと近づく。
サルはニコリとわらって息絶えると、めったにないチャンスはどこかへと消えた。
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