スイッチのないラジオ

かすかに音が聞こえる。
耳を澄ませると、苦しみを訴える声だと気づく。
扉の向こう、わずかに光がともった部屋から、弱々しく響く。

まぶたを閉じて、向こうの様子を想像する。

ベッドに横たわる病人が、いまわの際に発する声か。
酸素を絶たれた炭鉱労働者が、肺中の二酸化炭素を吐き出したのか。
銃弾に倒れた一般人が、不条理な現実に訴える声か。
死刑を宣告された罪人が、法廷で最後の反駁を終えたのか。
戦場に生きる新聞記者が、凄惨な光景に息をのんだのか。

もう声は聞こえない。

そのまま静かに横たわって、天井のシミに見入っている。
次に聞こえる音を、楽しみにして。

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