町中のやしろ

私は自転車を道端に停めて、ポケットからハンカチを出して額から止めど無く流れ落ちる汗を拭った。目線の先にはやしろがある。心のわだかまりを抑えつつ私は歩き始めた。

騒々しい交通の騒音から隔てられた境内。鳥居に軽く会釈をして、掃き清められた社に踏み入る。凛とした冷たい空気を吸い込むと、私の高ぶった気持ちも落ち着いてくる。時折人がやって来て、靜かに手を合わせて祈りを捧げている。私もそんな参拝者の一人だ。御手洗の冷たい手水で手と口をすすいで、神前へと向かって参道をゆっくりと歩く。

さやさやとそよぐ風、木の葉がすれる音。木々の梢で休んでいた小鳥たちが、人の気配を感じて飛び去る。ふいに顔に虫が当たると、人も虫も互いに驚く。私は一人参道を歩きながら、社の風景を楽しんでみる。

社殿の前に立ち、賽銭箱に賽銭を投げ入れて、鈴を軽く鳴らす。家族の幸せを祈る気持ちを込めて、深く二度の礼。拍手(かしわで)を二回打って、深く礼。

ゆっくりと身を起こし、神を見出そうと社殿をじっと見る。日が挿さないその先には暗がりがあって、私は目を閉じて長く息を吐く。そして鼻から深く息を吸いこむと、全身に行き渡ってわだかまりを薄めてくれる。

目を開く。けれど社殿はそこにあって、私はただの私に過ぎない。私はまた来ますよと誰にでもなく言い残し、社を後にした。

小鳥たちのさえずり。木漏れ陽に照らされた参道。社は今も、穏やかに神を祭っていた。